大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和43年(ネ)1300号 判決 1969年2月10日

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求をいずれも却下する。

訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人の請求をいずれも棄却する訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は、

控訴代理人において(一)有限会社が社員総会のために社員に出す招集、通知、その他の連絡方法は社員名簿に記載されている社員に宛て、すればよいのであつて、その社員が実質上の権利者であるかどうかを確認する義務を会社が負担するものではない、従つて社員名簿上の社員が実質上の権利者でなかつたとしても、そのために社員名簿宛になされた通知、連絡は会社に悪意又は重過失のないかぎり不適法とはいえず、被控訴人に通知がなかつたとしても総会の決議に瑕疵はない。(二)被控訴人が組織変更のための社員総会に参加する資格を有し、これに対し招集の通知を欠いたことが右総会でなされた組織変更の決議の瑕疵といえるとしても、その瑕疵は右決議を無効ならしめるものではなく、取消事由となるにすぎない。(被控訴人の持分は六百口で社員全部の持分合計四千口の一五パーセントにすぎない)そうすると右決議のなされた日から三ケ月以上経過した後に提起された本訴は取消を求めるための出訴期間の定めに違背し却下さるべきものである。

と述べ、

新たな証拠として(以下中略)

述べた外は原判決事実摘示と同一であるからその記載をここに引用する。

理由

被控訴人は昭和三十六年九月十五日設立登記された有限会社千葉タクシーが総社員の一致による社員総会の決議もないのに昭和四十一年十月十三日株式会社に組織変更の決議があつたとして同年十月二十四日控訴会社設立の登記がなされたものであり、右設立は無効であると主張して控訴会社を被告として控訴会社の設立無効の訴を提起したものである。ところで被控訴人主張の趣旨によれば控訴会社の設立は無効であつても、被控訴人は控訴会社の株主でも取締役でもないことは明白であるから商法第四百二十八条により控訴会社の設立無効の訴を提起する資格はなく、その訴における正当な当事者とはなり得ない(原判決のいう準用とは何の意か捕捉し得ないが)のみならず、被控訴人主張の理由の下では、被控訴人は控訴会社の存否自体については、直接利害関係なく、唯、その設立が有限会社千葉タクシーの組織変更の決議と牽連するというにすぎない、被控訴人としては、事態がその主張通りであるならば、有限会社千葉タクシーは登記簿上、抹消されても、なお存続しているのであるから、有限会社千葉タクシーを相手取り、組織変更の社員総会の決議無効ないし不存在の確認(この不存在確認の意は事実の確認の意に非ずして、決議が有効に存在することを前提とする会社並びに社員の一切の権利義務のないことを確定する趣旨で、決議無効とその趣旨を同一にするものである。)の訴をなすを以て足るべく、この場合に、同時に有限会社千葉タクシーの社員としての持分の確認を求めることが合理的となるわけである。控訴会社に対してこの持分の確認を求める何等の利益もない。被控訴人は、有限会社千葉タクシーの社員としての資格に基いて、本訴を提起しているのであるから、控訴会社の設立が有限会社千葉タクシーの社員総会の決議と不可分的牽連関係が事実上は存するけれども、純然たる法的見地よりすれば、有限会社千葉タクシーの社員と主張する被控訴人は控訴会社が存するか否かは、どうでもよいことであり、唯有限会社千葉タクシーが現存し、被控訴人がその社員たること確認されればよいわけである。

以上説示したところにより被控訴人の本訴は控訴会社設立無効を求める部分については正当の当事者たる適格を欠き、その他の請求についても正当の利益がない(もつとも正当な当事者でなければ正当の利益はないのであるから、この二つの観念は同一事の表裏の関係にあることは勿論である)ので、訴訟法上、被控訴人の本訴請求は却下を免れない。(この点で訴権を以て自己に有利な判決を求めるものと解する一般の定説によれば請求却下となり、訴権を以て本案についての判断を求めるものとし、その本案とは、係争権利関係の存否に関するものと解する一派の説によれば、訴却下とすべきであろうが、何れにしても実体法の権利義務の存否について判断したものでないことは同様である。)

右と趣を異にし被控訴人の請求をいずれも認容した原判決は失当であるから民事訴訟法第三百八十六条により原判決を取消し、被控訴人の請求はいずれも却下することとし、訴訟費用の負担については同法第九十六条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例